古い記憶、続き
そして、引越しの日。
弟と私が親戚の家で遊んでいると、夕方になって父が迎えにきた。
一緒に路面電車に乗って、見知らぬ場所へ辿りつき、真新しい大きなアパートの前に立った。
あの、オレンジ色の電気が見える所がおうちだよ、と父が先に歩いて階段を上って行った。
新しいおうちの中では、家事が嫌いな筈の母が、嬉しそうに台所で食事の支度をしていたのだった。
そこは札幌の郊外で、まわりは自然に溢れていた。
母はよく、お昼になると近所のお店でパンを買い求め、私達姉弟を連れては、一緒に見知らぬ場所をあちこち歩き回ったものだった。
草臥れると、「さあ、お昼ご飯を食べよう」と言っては、原っぱに持参の新聞紙を敷き、先ほどのパンを取り出して座った。
原っぱは、私達の遊び場の為にあるものだと思っていた。
親しくしていたご近所の家族を誘って、一緒にお散歩に出かけた事がある。
お昼になって、母がいつもの様に新聞紙を広げてパンを並べた。
その時、普段はいつも静かな雰囲気のその小母さんが「外で食べるだけで、こんなに美味しいんですねえ・・」と、とても嬉しそうな顔で笑っていたのを、今でも思い出す。
私は最近、そういったささやかな喜びを、ちょっと忘れかけていた様な気がするのだ。
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