ヴェリ・ウェスタン!
コンスタンツ滞在も終わりに近づいてくると、最初こそは、様々な国の人々との交流が新鮮だった私も、いくら片言といえども、英語での会話の毎日に、そろそろ疲労を感じ始めて来た。
私は、最後の日の小旅行には参加せず、1人でのんびりと街を歩き回る事にした。しばらく歩いていると、大きな楽器屋さんがあったので、誘われる様に中に入って行った。
たまたま一ヶ月後にリサイタルを控えていた私は、急に思いついて、練習ピアノはないだろうか、と尋ねてみた。
何でも、聞いてみるものである。隣に音楽学校があって、夏休み中だから使用できますよ、と早速ピアノのある小部屋に案内してくれたのだ。エアコンもないからか、親切に窓を開けてくれたので、私はいつもの様に深く考えずもせずに、2時間程練習を続けたのだが・・。
時間が来て帰り際、お店の人が「窓は開けたままですか・・?」と聞く。自分で開けてくれたのに、おかしな事を尋ねるな、とその時は思っただけだったが、若しかして回りから苦情があったのかも知れないと、歩き始めてハタと思い当たったのだ。
少ししょんぼりした気分で歩いていると、突然「○○さーん」と名前を呼ばれて、耳を疑った。勿論、声の主は、日本からいらしているK氏だった。余程私が、戸惑った表情をしたのだろうか。
「いや、私はランチの後、ちょっと散歩してるだけで、又すぐ会場に戻りますから・・」
全く・・・。歩く、恥のかき捨ておばさん、である。
翌日、最後の朝食の際、私はお世話になったS夫人やドイツの方々に、ちょっと頑張ってドイツ語でお礼を言った。英語もおぼつかない私だから、一同びっくりして、つかの間、時の人状態であった。
ずーっと昔、ウィーンでピアノの勉強をしていたものだから。でも、語学の方はおぼつかなくてと、弁解に大童であった。
「演奏会とか、なさるの?」と聞かれて、「実は、一ヶ月後にリサイタルを予定しているのでね。帰宅したら、それはもう大忙しなのです。」と答えると、1人が「まあ、素敵。どんなプログラムの演奏会?」と聞いてきた。
生来真面目な私は、問われるままに、「ベートーヴェンとスクリャービンのソナタを弾いて、休憩をはさみ、後半にはシューマンの作品を二曲。」と説明をした。
すると、お嬢さんのご主人が指揮者のカラヤンの秘書(だったかな・・?)をしているという、音楽通の1人が言った。
「オー。ヴェリ・ウエスタン!」
私にとっては、実に目から鱗の言葉であった。
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