「はじまり」の鼓動
還暦を迎えて、初めてのリサイタルであった。何か不思議な感じ、今までとは違う感覚があった様に思う。単純に年齢のせい、なのだろうけれど・・。
次は無いかも知れない、という漠然とした感覚といえばよいだろうか。特にゆっくりした曲等、気障な言い方をすれば、聴いていてくださる方々に、お別れの挨拶をしている気持ちが、どこかにあった気がする。
それは、10日程前にリハーサルをした時、初めて認識した感覚だった。そして、弾いている印象としては、何かしらお客様と気持ちの繋がりがある様でもあり、決して悪い感覚ではなかったのだ。
還暦という、年齢相応の演奏会だった、と言うべきだろうか。そして更に、私なりの、と付け加えるのを、忘れてはいけないし・・。
今回は、新しいヤマハのピアノを使用してみた。できたばかりのホールで、付帯されている二台のピアノは、スタインウエイにしろヤマハにしろ、使い熟れた状態には現在まだ程遠いこともあった。そして、この年になってくると自分自身も、西洋志向から地元へと視点が変わってくるのかも知れない。
一般的には、ホールで弾くピアノはスタインウエイが多いし、普段も練習用に使用しているNYスタインウエイに慣れているせいもあって、リハーサルで初めて音を出したときには、やや音色に対して違和感があった。
それは、単なる好みの問題だったのかも知れないが、和音で微妙な響きの違いを出す重要な音域の音色が、私には平坦で軽過ぎて、どうしても気になってしまった。
本番の数時間前に、調律師のW氏が、一緒にコンディションの調子をチェックしていてくれていたので、音色がそんなに短時間に変えられるものかどうか、危惧の念を持ちながらも、「何とかならないものかしら・・」とお願いしてみたのだ。
「15分位、お時間を戴ければ・・」という答えと共に、調整を始めたW氏には、はっきりとしたイメージがあったのだろう。3本の弦の調性を微妙に変化させたのだ、と後で説明があったけれど。
実際に聴いていらしたお客様達が、私の感じた様な音色の美しさを、味わってくださったどうかは、分からない。それは、私自身の出す音色の問題にもなってくる訳だから・・。
でも、新しいホールの響きと共に、実に弾いていてい気持ちの良い音色が、自分自身には聴こえてきたのだった。
そして、それは還暦から始まる、新しい自分への鼓動だったら、こんなに素晴らしい事はないのだけれど・・。
最近のコメント